肩関節可動域制限・筋力低下は障害リスクを増大させるか?
https://questionthinkingpt.blogspot.com/2014/06/blog-post.html
野球選手では、競技レベルや年齢を問わず、肩関節可動域や筋力が変化します。典型的な可動域変化は、非投球側に対する投球側の内旋・水平内転減少、外旋増大で、内旋と外旋を足し合わせた総回旋可動域(total rotation motion: TRM)には左右差を認めません。これまでの研究で、内旋減少やTRM減少、棘上筋筋力低下が肩・肘障害のリスクを増大させる可能性が示唆されましたが、結論には至っていません。そこで、肩関節可動域や筋力低下と肩・肘障害の関係を明らかにするべく、いくつかの前向き研究とケースコントロール研究結果を踏まえて考察してみました。
内旋可動域制限、総回旋可動域ともに、肩・肘障害リスクを増大させるかは不明。結論の不一致に加え、対象者や障害の定義が異なるため、これらの研究を統合して結論を得ることはできない。
肩・肘障害患者と症状のない選手で肩関節回旋可動域を比較した横断研究はいくつかみられるものの、可動域と障害の関係を前向きに調査した研究は限られています(表)。
Wilk et al. はプロ投手を対象として肩関節可動域と障害リスクの関係を調査し、内旋減少と障害リスクに関連性はないが、5°以上のTRM減少(投球側-非投球側)は障害リスクをおよそ2-3倍増大させると報告しました。
Shanley et al.は高校野球・ソフトボール選手を対象として上記の関係を調査
し、25°以上の内旋減少(投球側-非投球側)により肩・肘障害のリスクはおよそ4-5倍増大すると報告しました(表には野球選手の結果のみを記載)。加えて、TRMにより障害リスクは3倍増大する傾向が認められました。
一方、Tyler et al.の実施した研究では、TRMと障害リスクに関連性は認められませんでした。そればかりか、20°以上の内旋減少が生じている投手では、内旋減少を生じていない投手と比較して、障害リスクが小さいという結果が示されました。
現時点では、回旋可動域制限と肩・肘障害には何らかの関係があり、内旋減少や総回旋可動域減少は肩・肘障害のリスクを増大させる可能性がある、という推論にとどめておくべきかと思います。
不明。ただし、棘上筋筋力低下は複数の試合登板を控えなければならない、あるいは手術適応となるような肩・肘障害と関連する可能性がある。
筋力を調査した報告はさらに不足しています。
Trakis et al.は主として高校投手を対象としてシーズン中の肩関節痛とシーズン後の筋力インバランスを評価し、疼痛を有した投手では棘上筋インバランスが認められた(非投球側に対する投球側の棘上筋筋力が、疼痛のない投手と比較して小さかった)と報告しました。
Byram et al.はシーズン前の棘上筋筋力低下(投球側の絶対値)は、手術を必要とする肩・肘障害と関連することを報告しました。
Tyler et al.の実施した研究では、棘上筋筋力低下(非投球側に対する投球側の比)と肩・肘障害が関連する傾向が認められました。損失試合数が3試合をこえる障害に限定すると、棘上筋筋力低下は障害リスクをおよそ4-5倍増大させることが示されました。
これらの研究においても、対象者や障害の定義が異なるため決定的な結論を得ることはできませんが、棘上筋の筋力低下は重症度の高い障害と関連する可能性があると考えられます。
以前も記載したように、野球選手では、複数の危険因子が重なることで肩・肘障害の発症に至るものと考えられ、可動域や筋力だけでなく、投球数やその他の因子が関与します。(過去記事:http://questionthinkingpt.blogspot.jp/2013/08/blog-post.html)
肩関節回旋可動域制限・棘上筋筋力低下と肩・肘障害の関係
肩関節回旋可動域制限は肩・肘障害のリスクを増大させるか?
内旋可動域制限、総回旋可動域ともに、肩・肘障害リスクを増大させるかは不明。結論の不一致に加え、対象者や障害の定義が異なるため、これらの研究を統合して結論を得ることはできない。
肩・肘障害患者と症状のない選手で肩関節回旋可動域を比較した横断研究はいくつかみられるものの、可動域と障害の関係を前向きに調査した研究は限られています(表)。
Wilk et al. はプロ投手を対象として肩関節可動域と障害リスクの関係を調査し、内旋減少と障害リスクに関連性はないが、5°以上のTRM減少(投球側-非投球側)は障害リスクをおよそ2-3倍増大させると報告しました。
Shanley et al.は高校野球・ソフトボール選手を対象として上記の関係を調査
し、25°以上の内旋減少(投球側-非投球側)により肩・肘障害のリスクはおよそ4-5倍増大すると報告しました(表には野球選手の結果のみを記載)。加えて、TRMにより障害リスクは3倍増大する傾向が認められました。
一方、Tyler et al.の実施した研究では、TRMと障害リスクに関連性は認められませんでした。そればかりか、20°以上の内旋減少が生じている投手では、内旋減少を生じていない投手と比較して、障害リスクが小さいという結果が示されました。
現時点では、回旋可動域制限と肩・肘障害には何らかの関係があり、内旋減少や総回旋可動域減少は肩・肘障害のリスクを増大させる可能性がある、という推論にとどめておくべきかと思います。
棘上筋筋力低下は肩・肘障害のリスクを増大させるか?
不明。ただし、棘上筋筋力低下は複数の試合登板を控えなければならない、あるいは手術適応となるような肩・肘障害と関連する可能性がある。
筋力を調査した報告はさらに不足しています。
Trakis et al.は主として高校投手を対象としてシーズン中の肩関節痛とシーズン後の筋力インバランスを評価し、疼痛を有した投手では棘上筋インバランスが認められた(非投球側に対する投球側の棘上筋筋力が、疼痛のない投手と比較して小さかった)と報告しました。
Byram et al.はシーズン前の棘上筋筋力低下(投球側の絶対値)は、手術を必要とする肩・肘障害と関連することを報告しました。
Tyler et al.の実施した研究では、棘上筋筋力低下(非投球側に対する投球側の比)と肩・肘障害が関連する傾向が認められました。損失試合数が3試合をこえる障害に限定すると、棘上筋筋力低下は障害リスクをおよそ4-5倍増大させることが示されました。
これらの研究においても、対象者や障害の定義が異なるため決定的な結論を得ることはできませんが、棘上筋の筋力低下は重症度の高い障害と関連する可能性があると考えられます。
Key message
もちろん個々の選手によって障害に至る原因は様々ではあるかと思いますが、研究を実施することの意義は、法則性を導き出すことにあると考えています。そして、その法則性、具体的には危険因子を明らかにすることで、よりよい予防法も考案され、スポーツ現場に還元されるものと信じています。野球選手の肩・肘障害を予防するうえで、可動域制限や筋力低下のような機能的問題点は解決可能であり、今後も重要なテーマであると考えられます。情報収集を重ね、また取り上げたいと思います。
引用文献
1. Tyler, T.F., et al., Risk Factors for Shoulder and Elbow Injuries
in High School Baseball Pitchers: The Role of Preseason Strength and Range of
Motion. Am J Sports Med, 2014.
2. Shanley,
E., et al., Shoulder range of motion
measures as risk factors for shoulder and elbow injuries in high school
softball and baseball players. Am J Sports Med, 2011. 39(9): p. 1997-2006.
3. Wilk,
K.E., et al., Correlation of glenohumeral
internal rotation deficit and total rotational motion to shoulder injuries in
professional baseball pitchers. Am J Sports Med, 2011. 39(2): p. 329-35.
4. Byram,
I.R., et al., Preseason shoulder strength
measurements in professional baseball pitchers: identifying players at risk for
injury. Am J Sports Med, 2010. 38(7):
p. 1375-82.
5. Trakis,
J.E., et al., Muscle strength and range
of motion in adolescent pitchers with throwing-related pain: implications for
injury prevention. Am J Sports Med, 2008. 36(11): p. 2173-8.