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SLAP損傷の病態メカニズム

SLAP損傷

肩関節上方関節唇損傷(Superior labrum anterior and posterior lesion)は野球選手においてしばしば認められるスポーツ障害の1つであり、いくつかのメカニズムが考えられています。大まかに分類すると外傷性と非外傷性に分けられ、外傷性の発症の例として手を広げた状態での転倒があり、関節上面が圧迫されることでSLAP損傷が生じます(Compressive injury)。また、肩関節から転倒することで直達外力が生じ、上肢が牽引されて損傷に至る場合もあります(Traction injury)。一方、野球選手のような投球動作を繰り返すスポーツ選手では、外傷の既往なく発症することが多く、慢性的なストレスがSLAP損傷に関与します。また、損傷形態に基づくSnyderの分類によると、タイプⅡSLAP損傷(関節窩から上腕二頭筋長頭腱‐上方関節唇複合体が剥離した状態)が多いというのも、野球選手における関節唇損傷の特徴の1つです。

野球選手におけるSLAP損傷のメカニズム

Andrewsらは、野球選手におけるSLAP損傷の病態を、投球のdeceleration phaseにおける上腕二頭筋の遠心性収縮によって生じるものと仮定し、関節鏡視下にて上腕二頭筋に電気刺激を加えました。この観察において関節唇は関節窩から引き離され、仮説を支持する結果となりました。ここでは、このメカニズムを"Pulling off mechanism"と呼ぶこととします。

"Peel-back mechanism"は、Burkhartらによって提唱されたSLAP損傷のメカニズムであり、投球の最大外旋時に上腕二頭筋長頭腱が捻れることでその基部にストレスが加わると仮定されました。また、Jobeら、Walchらは最大外旋位で後上方関節唇と腱板が接触することで同部位に損傷が生じると提唱しました。このメカニズムは"internal impingement"と呼ばれています。

Pulling off mechanism? Peel-back mechanism?

関節唇損傷におけるinternal impingementの関与を実験的に示した報告は見当たらなかったので、入手できた研究をもとに、2つのメカニズムについて考察します。

Pradhanらは、屍体肩を用いてシュミレーションを行い、投球動作のどのフェーズで最も上方関節唇に張力が加わるかを調査しました。その結果、上方関節唇の前方・後方ともにlate cocking phaseで最も張力が増大し、Peel-back mechanismが支持されました。一方、deceleration phaseでは関節唇に対する張力は他のフェーズと比較して差を認めませんでした。

Shepardらは、屍体肩を用いて、①上腕二頭筋長頭腱に直線的に張力を加えた場合(deceleration phaseを想定)と、②Peel-back減少が起こる肢位(late cocking phaseを想定)で上腕二頭筋に張力を加えた場合で、上方関節唇の破断強度が異なるか調査しました。②Peel-back肢位では上方関節唇の破断強度が有意に小さく(①508N > ②262N)、Peel-back mechanismを支持する結果となりました。また、損傷形態の観察の結果、①では1例を除く7例で腱が断裂した一方で、②では8例全例でタイプⅡSLAP損傷が生じました。


野球選手におけるSLAP損傷のメカニズムは?という問いに対する解答は、これまでの基礎研究の結果に基づくなら、"Peel-back mechanism"が有力と言えます。そしてこのメカニズムが投球動作におけるSLAP損傷の主たる病態ととらえる時、特殊検査にO'BrienのActive compression testを用いることに疑問が生じます。

それでは、SLAP損傷に対する有効な特殊検査は?

これは2013年においても議論が進行中で、システマティックレビューが比較的数多く報告されています。機会をみつけて、このブログで取り上げてみたいと思います。


引用文献 

1. Andrews JR, Carson WG, Jr., McLeod WD. Glenoid labrum tears related to the long head of the biceps. Am J Sports Med. 1985;13(5):337-341.

2. Burkhart SS, Morgan CD. The peel-back mechanism: its role in producing and extending posterior type II SLAP lesions and its effect on SLAP repair rehabilitation. Arthroscopy. 1998;14(6):637-640.

3. Jobe CM. Posterior superior glenoid impingement: expanded spectrum. Arthroscopy. 1995;11(5):530-536.

4. Pradhan RL, Itoi E, Hatakeyama Y, Urayama M, Sato K. Superior labral strain during the throwing motion. A cadaveric study. Am J Sports Med. 2001;29(4):488-492.

5. Shepard MF, Dugas JR, Zeng N, Andrews JR. Differences in the ultimate strength of the biceps anchor and the generation of type II superior labral anterior posterior lesions in a cadaveric model. Am J Sports Med. 2004;32(5):1197-1201.

6. Walch G, Boileau P, Neoel E, Donell S. Impingement of the deep surface of the supraspinatus tendon on the posterosuperior glenoid rim: An arthroscopic study. J Shoulder Elbow Surg. 1992;1:238-245.
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